「巨人の星」に学ぶ、対人処方

不要不急の外出を控え、自宅にこもることの多い毎日を過ごしております。
比較的早い夜の時間、最近はオンデマンドによる昭和の名作アニメを観ています。
「巨人の星」、おそらく40代以上の方なら、タイトルくらいは聞いたことはあるのではないでしょうか。
1968年から1979年にかけて放送されたTVアニメで、プロ野球巨人軍を目指して猛特訓に励む父と息子の、そして後半は巨人軍に入った息子の、スポーツ根性ものです。
楽しむポイントはいろいろとあるのですが、今回は対人処世術の観点から、「あ~、なるほど。」と思い当たったことについて、書いてみることにします。

 

他人が自分に対してする”嫌な言動”の意味は?

「巨人の星」第35話「魔球対剛速球」の中に、考えさせられるシーンがありました。
主人公の星飛雄馬(ほしひゅうま)は、16歳。
甲子園初出場の青雲高校の投手です。
左の本格派、剛速球投手で、幼いころから父にしごかれて、針の穴を通すコントロールと根性、野球理論を持ち合わせています。
対戦相手は、前年度優勝校の三河高校。
エースの太刀川(18歳)は、きれの良いドロップを決め球にする変化球投手です。
今風に言えば、縦におちるカーブでしょうか。
息詰まる投手戦が続き、太刀川は17奪三振です。
0対0、9回裏二死、打者は太刀川の場面でのこと。
太刀川は、バントをします。
飛雄馬は、軽快なフィールドワークで簡単に処理をします。
そこで、「?」となるのです。

「俺の投手守備が下手でないことを、太刀川は知っていたはずだ。
なのにどうして、バントをしたんだ。」

 

そこで、ひらめくのです。
17奪三振、ここまで投げてきた太刀川は、疲れている。
バントで右に左に揺さぶられては、足がついてゆかないと恐れた。
そして彼は思った。
「自分が苦しい時は、相手も苦しい。」
だから飛雄馬が嫌がるだろうバントを、彼はしたのだと。

飛雄馬は、体力温存しながら投げていたので、太刀川ほど疲れてはいませんでした。
だからそのバントを処理できたのですが、この不自然なバントで太刀川の疲れを飛雄馬は見抜くという筋です。

 

これを見て、なるほどと思いました。
いつも他人に嫌なことを言う人、たぶん嫌がるだろうことを探している人、誰の身の周りにも少なからずいることと思います。
たとえば学歴、たとえば運動神経、スポーツの成績、家庭環境、容姿、所属している会社や団体等々。
こういうことを会話の中に織り交ぜて、相手の顔色をうかがい、相手の弱いポイントを探っているような人。
この人たちのついてくるポイントは、実は本人が弱いところなのです。
自分がそれを弱みに思っているから、相手もきっとそうだろうと思うのです。
それならば、その挑発にのるのは愚の骨頂です。
自分から自分の弱みを見せてくれているのですから、
「ああ、この人はこういうことに、コンプレックスがあるのね。」
と認識して、その次の言葉を選びます。
もしぴしゃりとやりたい(やっても良い相手なら)のなら、そのように。
うけながさなければならない相手であれば、むしろにっこり笑って受け流す。

巨人の星を見て処世術を学ぼうとは思いませんでしたが、さすが昭和の名作アニメ、なかなか深いです。
外出自粛はまだまだ続きそうですから、昭和の名作を楽しむ時間はたっぷりあります。
面白い気づきがあれば、またここで報告させていただきます。

テレワークのストレス

 

コロナウィルスの影響で、世の中大変なことになっていますね。
2月、この騒動が始まった頃、東京オリンピックも控えていることだし、国の威信にかけて3月末か遅くとも5月には、一連の騒動をおさめることだろうと思っていました。
楽観的に過ぎた予想でした。
オリンピックは延期され、今やウィルスは全世界で猛威を奮う。
外出の自粛が要請されて、仕事でさえテレワークを推奨される昨今です。

テレワーク、職場ではない場所(主に自宅)で、職場にいるのとほぼ同じ仕事をする形態。
VPN(仮想プライベートネットワーク)技術の向上により、物理的に離れた場所にいても、インターネット回線を通じて、安全で安心なセキュリティの下、社内LAN内で作業をしているかのような環境を得ることができるようになりました。
通勤ラッシュにもまれて、遠距離をはるばると職場に出かけなくても良いということは、近年政府が訴えている「働き方改革」の1つで、これ自体はとても良いものだと思います。

けれど自宅での仕事は、良いことばかりではありません。
私的空間に仕事を持ち込むのには、けじめとでもいうべき、しきりが必要です。
家族がいる場合、これはとても大事なことです。
例えば、9:00~17:30の勤務時間中は、たまたま自宅で作業をしているだけで、職場にいるのと同じように頭と心は仕事に向かっているのだから、その間他の作業のあてにはできないはずです。
この感覚を、家族に理解してもらわないと、

「自宅にいるのに、子供の面倒をみてくれない。」
「家事を手伝ってくれない。」

不満や愚痴を聞くはめになります。
子供がいる家庭では、仕事中にはけして近づかないようにとの躾も必要になるでしょう。
共働き家庭では、もっと困るでしょう。
休校になった子供が家庭に閉じ込められれば、退屈を持て余して愚図ったり、騒いだりもするでしょうし、言いつけを守らず外出してしまうことだってあるかもしれません。
仕事に集中していれば、外出に気づかずにいることだってあるでしょう。
子供の面倒をみながら、仕事に集中する。
なかなかに難しいことです。

本当は、テレワークの家族向け啓蒙マニュアルのようなものがあって、理解を深める準備期間をおいて、Goサインが出るのが望ましかったのでしょう。
それを今回のコロナ騒動で、いきなり始めたものだから、働き手も家族も困惑している。

急に始まった感のあるテレワーク、感染拡大防止のために必要なことですから受け容れるしかありませんが、おそらく多くの人に多大なストレスを与えていることと思います。
そこでとりあえずですが、明日からできるストレス軽減策をいくつかご提案いたします。

 

1.勤務時間内は、ベッドルーム等の個室に机を持ち込んで作業する。
ドアを閉ざし、できれば子供にもわかるように張り紙をする。
「しごとちゅう。じゃましないでね。」とか。

2.勤務時間とそれ以外の時間の切り替えを明確にする。
勤務時間が終わったら、家族の相手を積極的にする。
*いつまでもは無理なので、最初だけでも。
そうすれば、メリハリの習慣がつく。

3.できれば勤務中は、いつもと同じ服装にする。
「これを着ている時は仕事中」というサインになる。

4.共働き家庭で、子供が小さい場合(小学生)、1時間に1度は5分~10分程度、様子をみる。
幼い子供は、集中力の持続時間が短いので、長時間放置しておくと、子供の退屈や不安、好奇心の集中砲火を受けて、事態の鎮静化のため、多くの時間を必要とすることに。

5.配偶者や両親が家家を切り盛りしてくれる場合、1時間に1度程度、
「ありがとう。」とか「助かるよ。」と、お礼を言う。
職場でお茶を淹れてもらった時に言うように、仕事だと思って言う。

居心地の改善に、少しは役立つと思います。
お試しください。

非常時の新入社員研修

年度が変わり、令和2年度が始まりました。
桜は満開、いつもであれば、入学式に入社式、入庁式と、人生の節目のイベントで賑やかな頃です。
けれど憎らしいコロナウィルスのせいで、中止や規模の縮小のニュースを耳にします。
ハレの日を楽しみにしていらした方々のお気持ちを思うと、仕方のないこととはいえ、残念でお気の毒です。

さて、先の見えない現状で、頑張って新入社員を採用した企業の皆様、いつもであればなさるであろう研修、新入社員研修をどうしておいででしょうか。
おそらくウィルス感染予防のため、大人数での研修は控えておられるのでは。
少人数であれば、研修室に十分な広さと換気の確保、それにマスクとアルコール消毒の徹底という慎重さをもって、実施することはできるでしょう。
けれど大人数になったり、受講者の集合に県間移動を伴う場合、事態が落ち着くのを待とうと判断なさるのではないでしょうか。
けれどどんな事態でも、新入社員は今日から仕事を始めることに変わりはなく、知っておくべきことを伝える必要性は、いつもと同じです。
今日は、当座参考資料として使っていただける本を、ご紹介することにします。
総務、人事担当の方のお役に立てれば、幸いです。

「電話応対技能検定(もしもし検定)クイックマスター 電話応対〈第2版〉」
吉川 理恵子 (著), 公益財団法人 日本電信電話ユーザ協会 (監修)

上の本は、もともと電話応対技能検定のためのテキストです。
けれども、これがまた読みやすいのです。
受験勉強を思い出してください。
初級、中級、上級と、問題集を使い分けませんでしたか?
最初から、分厚くて小難しいことを並べられたら、やる気も失せるというものです。
どんな難関校を受験するにせよ、最初は基礎から始めます。
そしてその基礎を勉強する時の問題集こそ大切で、できるだけ薄くて易しいもので、全体を流せるものが望ましい。
新入社員に必要なビジネススキルも、これと同じです。

上でご紹介した本は、まず絵が多く、1ページの文字数が少ないので、
「げ!」
と思う抵抗感が少ないのです。
本当に初歩のビジネススキルのみですが、最初はそれでよいでしょう。
そして何よりも良いと思うところは、ほとんどの新入社員にとっての難関が電話対応ですが、そこに「使える」点です。
これまで友人や肉親、それに先生くらいとしか、電話で話さなかった人たちです。
いきなりビジネスシーンの対応に、なじめるわけはありません。
研修なしで実務につくと、先輩のやり方をまねするところから始めるのでしょうが、その前にスタンダードを知っておくほうが望ましいのです。
その電話対応についての記述は、さすが電話応対技能のためのテキストで、他に比べると詳しく書いてあります。

これを一冊、手元に置いておいて、できれば通読するように。
何か不安に思う事があれば、調べてみるように。

こう指示するだけでも、ずいぶん違います。
そしてこの非常事態が落ち着いてきた時、あらためて対面の研修を受講してもらえば、予習は済んでいるのですから、毎年行う研修より効果的かもしれません。

非常時には非常時の研修を。
ぜひお試しください。

 

心の3点支持

生きていると、穏やかな日々ばかりではありませんよね。
家庭内のトラブル、仕事上のトラブル、人間関係、家族の延長線上にあるトラブル(妻の夫の仕事関連の交際、子供の学校関連の交際、義理の家族との交際等)等々、おそらく何もない人などいないのではないでしょうか。
私たちは我慢することを美徳として、育てられています。
だから何かあっても、
「こんなの大したことじゃない。忘れよう、気にしない。」
と自分に言い聞かせて、耐える。
そしてつもりつもって、だんだんに塊が大きくなって弾ける。
弾けた先にあるものは、離婚であったり、離職であったり、とにかくあまり気持ちの良い終わり方ではないものです。
今日は、そうならないようにする予防法について、心の3点支持を提案することにします。

 

3点支持

耳にされたことは、ありますか?
元々は岩登りの姿勢に使う言葉で、4肢のうち3肢で身体を支え、残る1肢を移動のために自由にする安全姿勢のことです。
脚立や梯子、電柱に登るような高所作業が必要な業界では、よく聞く言葉です。
3点で身体を支えれば安定する。

これ、心の安定にも使えるなあと思ったのです。
働く人の多くは、起きている時間の半分以上を職場か通勤時間に使っています。
仕事が終われば、疲れて自宅へまっすぐ帰るか、そうでなければ仕事仲間と一杯飲んで帰ろうかとなるのが、よくあるパターンでしょう。
この人の所属するコミュニティ(共同体)は、1つまたは2つです。
まず職場。
家族がいる場合、これに家庭が入ります。
1つのコミュニティにしか属していない場合、人間関係や価値観の醸成等がすべて1つのコミュニティに従属しています。
そこで人間関係がこじれたり、何かトラブルがあったりすると、そのことばかりを考えてしまいます。
けれどもう1つコミュニティがあったら、少しは楽になります。
そこは、職場のコミュニティとは違う人員による構成だからです。
そして職場が仕事をすることを目的としたコミュニティであるのに対し、家庭は家族で生活することを目的としたコミュニティであり、集まる目的が違うので、うまくいけば職場のトラブルによるストレスを軽くしてくれる場合もあります。
但し、あくまでも「場合もある」ということです。
生活には、手間暇、お金がかかるもので、そこにはそれなりのトラブルがあります。
家族である分、他人より遠慮のない生の言葉をぶつけ合い、さらにストレスがたまる場合もあるということです。
そこに、第3のコミュニティを持つメリットがあります。

第3のコミュニティとは、仕事をするためでも生活するためでもない、生きる為にどうしても必要というわけではない目的のための共同体。
一番わかりやすいのは、趣味でしょう。
草野球、サッカー、格闘技、テニス、バレーボール等のスポーツ。
書道、絵画、音楽、文芸等のアート。
料理、手芸等の実用的なもの。
趣味とは少し違いますが、ボランティア活動なんていうものもあるでしょう。
このコミュニティを持つと、仕事にも生活にも関わりのない人たちが相手なので、気持ちを楽にして話すことができるような気がします。
そしてこの3つめのコミュニティは、「好きだから、やりたいからやる」が基本姿勢なので、「楽しいまたはやりがいがある」のが前提です。
そしてその良いところは、興味の対象が増えれば所属コミュニティをもっと増やすことができるし、興味がなくなれば削ることもできる点です。
気楽に楽しみながら、社会と関われる。
この3つめのコミュニティを複数持てば、「3点支持」による心の安全を保てるようになります。

働くということは、起きている時間の半分以上を職場で過ごすということです。
働いてお金を得なければ、生活できないのがほとんどの人ですから、職場のコミュニティに、よくも悪くも影響されるのは仕方のない事でしょう。
生きるのに必要なコミュニティだからこそ、悪い時でも、上手にうけながしたいものです。
心の平穏を保てれば、受け流すのがそれほど難しくはありません。
「そこにいて良い場所」が、他にもどこかにあるからです。
ご家族とうまくいっている方も、保険のためにお考え下さい。
第3のコミュニティ。
かなり良い仕事をしてくれますよ。

忠誠心の育て方 -非正規雇用からの登用ー(3)

互いになんらかの利益を与え合う関係である「御恩と奉公」における忠誠心には、熱心に奉公するための御恩を効果的に与えることが大事でした。
今回は、それ以外のパターン、利益の保証もないのに忠誠心が生まれる場合について書いてみます。

2.見返りを求めない奉公
忠臣蔵など時代劇を見ていると、「お家のために」とか「殿のために」の言葉が出てきます。
主家や主君を辱めたものに対して命を捨てて抗議する姿が、時代をこえて人の心を打つのは、そこに見返りを求めない忠誠心を見るからでしょう。
忠臣蔵の義士たちは、それでも当時や後世の人々からの賛美という名誉を得ましたが、その名誉さえも求めない、さらに厳しい忠誠心も「葉隠れ」(山本常朝 江戸中期の書物)の中にはありました。

この忠誠心は、忠義をつくす方に、「忠義を尽くす美学」か「忠義を尽くすに足る愛着」か、どちらかがないと生まれないような気がします。
忠義を尽くす美学に関しては、江戸時代の場合、教育によるところが大きいでしょう。
今この忠誠心を育てるとしたら、忠義を尽くすに足る愛着を刺激するしかありません。

主家、主君を、現代に置き換えると、役所または会社、長官(所長)または社長となるでしょう。
役所や会社という組織か、所長や社長という個人に対して、自らの利益を顧みず熱心に奉公するとしたら、何が理由でしょうか。
組織を愛している。
その組織に属していることを誇りに思い、それを自らのアイデンティティ(自己同一性)としている。
所長や社長個人を愛している。
尊敬し、崇拝し、親近感を覚え、その人のためにならどんな努力も惜しまないと思っている。
こんなところではないでしょうか。

非正規雇用社員を登用する際、忠誠心を育てることが大切です。
しかしこの育成には、育てる側が非正規雇用社員の心情とものの考え方を理解しておかねば効果は上がりにくいでしょう。
非正規雇用社員を正社員に登用している企業におかれては、忠誠心の育て方についてお考えになってみてはいかがでしょうか。

忠誠心の育て方 ー非正規雇用からの登用ー(2)

忠誠心(愛着)の発生には、2つのパターンがあります。

1.ご恩と奉公タイプ
企業と労働者の間には、互いに利益を提示し合う関係があり、相手が自分に利益をもたらす故に相手に対して厚く遇したり、熱心に奉公したりします。

鎌倉幕府の御恩とは、これまでの所領を安堵した上、手柄に応じて新所領を与えることです。
これを今の時代に置き換えると、既得権の保証と新しい昇進昇級昇給の機会の提示というところでしょうか。

ここで大切なのが、既得権の保証の部分です。
非正規雇用時に、彼らに対して個人的に約束していたことがあれば(例えば現在の給与額、出張はない、転勤はない、自動車通勤許可等)、その条件を前提に彼らの生活は成り立っています。
もし正規雇用に際して、それらの条件を変更しなければならなくなった場合、該当社員とよく話し合い妥協点をみつける必要があります。
「正社員にしてやるのだから言うことをきけ。」という態度では、新条件の提示は確かに自分にとって利益であり、新しい「御恩」だが、旧の「ご恩」を取り上げられるのなら差引0ではないかと考えてしまう人もでるでしょう。
それでは「御恩」になりません。
「御恩」があればこそ、二心なく熱心な奉公に結びつきます。

新しい御恩にあたる昇進昇級昇給に際しても、与え方に注意が必要です。
長く非正規雇用で働いてきた彼らには、前回触れたとおり正規雇用者と異なる特性があります。
企業が望む「できるはず」のことが、できないことがあるのです。
それを補填する為に、それぞれの階層に応じた研修による能力の習得が必要ですが、この研修自体が昇進昇級昇給のためのステップであり、能力アップのために企業が与える「御恩」なのだと、彼らに理解してもらわなくては、熱心な奉公につながりません。
せっかく時間とお金をかけて御恩を提示するのですから、奉公につながらなくてはもったいない事です。

次回は、御恩と奉公以外の忠誠心発生のパターンについて扱います。

 

忠誠心の育て方 ー非正規雇用からの登用ー

1990年代から始まった長い不況の間、俗に就職氷河期世代と呼ばれる方々が労働市場に参入しました。
一部の恵まれた方を除けば、多くが辛酸をなめた世代です。
契約社員、派遣社員といった非正規雇用者として、働かざるをえなかった世代。
今彼らは30代後半から50歳くらいになっています。
企業が正社員の採用を絞った為、当然のことながら各企業においてその世代の人財が少ないのです。
加えて国の意向もあり、最近、非正規雇用者を正規雇用者として登用しようという動きが、あちこちで見受けられるようになりました。

けれど実際にそうなると、別の問題が出てくるようです。
今日は非正規雇用者を正規雇用にする際の問題点について、扱うことにします。

 

ある企業で非正規雇用で入社した方々(18歳~46歳)の研修を10数年担当していましたが、その中で気づいた彼らの特徴が数点あります。
まず長所。
1.柔軟な協調性
新卒者を除き、ほとんどの方は前職をなんらかの事情で辞めて入社してきます。前職がなんであれ、新たに入った職場に早くなじもうと努力する謙虚で柔軟な協調性が見られました。
2.メンタルの強靭性
他の職場でもまれてきているので、人間関係のもろもろへの耐性が強いようでした。

けれど良いことばかりではありません。
長く正規雇用で働いてきた方にあって、彼らにないものももちろんあります。

1.忠誠心(Loyalty)
忠誠心とは、尊敬をもって命令に服従する心です。
新卒で正規雇用で入社した人々には、多くの企業で研修メニューが用意されています。
社歴や階層に応じて、その時々に必要な能力を落とし込んでいきます。
また長く在籍するうちに、企業の風土にもなじみ、そこに対する愛着も自然に生まれてくるものです。
同じ愛着を持つ上司からの命令には、たとえ少々の不満があっても従うでしょう。
けれど非正規雇用者はこの仕組みの枠外に在る為、愛着は育ちにくく、自分の能力のみを恃みにする傾向があります。
上司と同じ愛着を持たないため、不平不満が目立ちます。
2.未開発の能力の多さ
企業の用意した研修メニューによる育成がなされていないため、「できるはず」と企業側が思うことができない傾向があります。
それは非正規雇用者として、正社員の職分を侵さないように働いてきた「つけ」ともいうべきものです。
狭視野でしかものを見ない為、考え方が一面的で極端でもあります。
けれどこれは同時に「伸びしろ」の多さを示すものでもあり、必ずしも短所ではありません。

柔軟な協調性、強靭なメンタルという長所を持ちながら、忠誠心(愛着心)が薄い為、正規雇用の社員しか部下に持たなかった上司には、扱いづらい存在ではないでしょうか。
問題は忠誠心の育成です。
次回は、どのようにして忠誠心を育てるかを扱います。

 

 

冷静でいる力

コロナウィルスで騒がしい毎日です。
テレビをつければウィルスの脅威でにぎわい、ネットでは正確でタイムリーなニュースに混じって、トイレットペーパーが不足するとか、ペットシーツが不足するとか、迷惑この上ないデマが飛び交ったりしています。

人は不安や恐怖があると、防衛本能が働くものだそうです。
関東大震災の際にも、どこをどうつけばそうなるのかというデマが出回り、それでひどい目にあった方もいるとか。
不安や恐怖の恐慌状態下では、どうも攻撃的になるようです。
これは今の状態にも、通じるものがあるかもしれません。

いつ解決するかわからない混乱を前に、物資の不足を心配したり、感染して社会生活から隔離されたまま帰れなくなるのでは心配したり、感染したことを責められるのではと心配したり。
集団ヒステリー状態のように見えます。

巷にあふれている情報は、玉石混交、本当に正しいものと単なる憶測のもの、希望のバイアスのかかったもの、不安のバイアスのかかったものが混ざってます。
こんな時こそ、正しい情報を見極める冷静さが必要です。
できるだけ客観的な根拠のあるニュースを基に、その後は自分の頭で状況を考えるのですが、そのためには極端で刺激的なニュースは遠ざける冷えた頭が必要なのだと思います。

まずおいしいお茶を淹れて、ひとつ息をして、それからどうすべきか考えるように。
最近、特に意識して努力していることです。

「できない」言い訳はみっともない。

「このままでは現場は回りません。」
「こんなの無茶苦茶です。」

新しいことを始める時、必ずこんな声が上がります。
特に現場リーダーの立場にある人、たいていは現場の仕事のできる人たちから、上がる声。

人が足らない。
人の質が悪い。
ものが足りない。エトセトラエトセトラ

現場リーダーとは、マネージャーになる前の段階で、現場においてリーダーシップを発揮して、仕事を回してゆく人のこと。
リーダーシップとは、やる気にさせる影響力のこと。
現有戦力にいかに不満があろうとも、「できる方法」を考えて、上に調整をかけるのも仕事のうちです。

最近気づいたのですが、この「上へ調整する」ということを知らないリーダーさんもいるのではないかと。
だめだしはできても、できる方法を考えて、それをさせてほしいと調整する必要があるのだと、知らない人もいるんだなと思うのです。

経営層、管理者層、その下の現場リーダー層、一般社員。
職位による職責の違いを理解していなければ、自分が何をするべきかもぴんとこないもの。
上位階層が何を考えていて、どんな目標をもってどんな方針で何をしようとしているか。
それに自分たちは、どう貢献するか。
そのためには、具体的に何を目標にして、どんな方針をたてるか。
現場リーダー層になれば、そろそろこんな思考も必要です。

だめだしは、新橋の焼き鳥やさんあたりで盛大にやって、戦場たる職場では、ぜひぜひ「何をすべきか」「どうしたらできるか」を考えることにシフトできたら、日々の仕事も楽しくなるのではと思う事です。

ちょっと待って!それ、本当にクレーム?(4)

考えられる理由として、3つ考えられます。
経験不足
一次対応をするオペレータから二次対応をするリーダーまたはスーパーバイザ(コールセンタのマネージャー職)に上がったばかりで、二次対応の経験が不足していた。
研修は受講していたが、実践になると「クレーム」と構えてしまい、つい自分の言いたいことばかり言ってしまった。
研修をそもそも受講していない。

3つの理由のうち、3はおそらくどの企業でもないと思います。
1も、経験値が上がれば解決する問題なので良いとします。
2が、一番厄介な問題です。
2については、個人の資質に頼るところが大きいと、残念ながら思うからです。
お客様の感情に寄りそうことが上手な人は、お客様の微妙な間合いや沈黙、口調などから、お客様の感情を読み取ります。
これは経験によるところも大きいのですが、それだけではありません。
個人の資質によるところも大きいものだと思います。
だから本来は、できるだけこの資質のある人を、二次対応にまわしたいところですが、こういう資質のある人は、たいてい他の業務もできるので、さらに他のセクションへ転属されてしまうことが多いように見えます。
企業としては、なんとかして資質の乏しい人にも、お客様の感情を読み取り共感するセンスを身に着けてもらわなくてはならないわけです。
そこで研修、モニタリングによるコーチング等、電話受付をする部署においてはかなりの高頻度で行っていることでしょうが、なかなか思うようにいかないのが実態でしょう。
その原因の1番大きなものが、冒頭で書いた「クレーム=怒鳴られる=怖い」という図式が頭の中にあることだと考えます。
二次対応者の場合、電話を受ける(かける)場合の多くが、なにかしら問題があった場合の対応になるので、
「またクレームかよ。」
となるのは、わからないではありません。
そこで、明日からできる改善法として、これはいかがでしょうか。
「本当にクレームか?
もしかすると、確認だけとか、勘違いとかかもしれない。
よく確認しないとな。」
電話に出る前に、これを自分に言い聞かせるのです。
一呼吸おいて、そう自分に言い聞かせるだけで、心の余裕が違います。
もし仮に電話に出るなり怒鳴られたり、不機嫌だったりした場合は、自分が怒鳴られていると考えず、怒鳴られている対象を良い意味で突き放します。
そして、
「どんな感情がこの人を怒らせているのだろう?」
と考えると、冷静になれます。
怒りは二次感情であって、その底に一次感情である「不安」とか「悲しい」とか「悔しい」とかがあります。
そこを理解すれば、対応は楽です。
これはアンガーマネジメント的な発想です。
そしてさらにそうなった前提に、「正当な権利」を侵害されたという事実があるのかもしれません。
人の感情を読むことが上手な人の資質を、上のような理屈で習得するのです。
二次対応が苦手なリーダーやSV(スーパーバイザ)その他管理者の皆様、騙されたと思ってちょっと試してみてください。
「そのクレーム、本当にクレームですか?」

 

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