互いになんらかの利益を与え合う関係である「御恩と奉公」における忠誠心には、熱心に奉公するための御恩を効果的に与えることが大事でした。
今回は、それ以外のパターン、利益の保証もないのに忠誠心が生まれる場合について書いてみます。
2.見返りを求めない奉公
忠臣蔵など時代劇を見ていると、「お家のために」とか「殿のために」の言葉が出てきます。
主家や主君を辱めたものに対して命を捨てて抗議する姿が、時代をこえて人の心を打つのは、そこに見返りを求めない忠誠心を見るからでしょう。
忠臣蔵の義士たちは、それでも当時や後世の人々からの賛美という名誉を得ましたが、その名誉さえも求めない、さらに厳しい忠誠心も「葉隠れ」(山本常朝 江戸中期の書物)の中にはありました。
この忠誠心は、忠義をつくす方に、「忠義を尽くす美学」か「忠義を尽くすに足る愛着」か、どちらかがないと生まれないような気がします。
忠義を尽くす美学に関しては、江戸時代の場合、教育によるところが大きいでしょう。
今この忠誠心を育てるとしたら、忠義を尽くすに足る愛着を刺激するしかありません。
主家、主君を、現代に置き換えると、役所または会社、長官(所長)または社長となるでしょう。
役所や会社という組織か、所長や社長という個人に対して、自らの利益を顧みず熱心に奉公するとしたら、何が理由でしょうか。
組織を愛している。
その組織に属していることを誇りに思い、それを自らのアイデンティティ(自己同一性)としている。
所長や社長個人を愛している。
尊敬し、崇拝し、親近感を覚え、その人のためにならどんな努力も惜しまないと思っている。
こんなところではないでしょうか。
非正規雇用社員を登用する際、忠誠心を育てることが大切です。
しかしこの育成には、育てる側が非正規雇用社員の心情とものの考え方を理解しておかねば効果は上がりにくいでしょう。
非正規雇用社員を正社員に登用している企業におかれては、忠誠心の育て方についてお考えになってみてはいかがでしょうか。